RMリソース
リスクマネジメント Lesson
 3.リスクの認識
 
 
◆排除すべき4つの「あ」  ◆リスクの分類  ◆手法  ◆現場のリスク
◆戦略リスク  ◆コンプライアンス  ◆財務リスク
 
 
財務リスク
 企業が倒産に追い込まれる時、その根源となる要因は多様に存在しますが最終的にはお金が無くなることです。半世紀以上もの歴史を持つ欧米のリスクマネジメントは、近年まで財務リスク管理が中心であり、そのための手法として「保険」が発展、リスクマネジャー=保険管理担当者となりました。
 
 
 日本の政策が1990年代に変わり、銀行を通した財務サポート体制が外れたため、企業は独自の財務リスク管理を必要とする時代になったことは、先に述べました(リスクマネジメントの必要性-◆メインバンク制度崩壊)しかし、地震や台風といった自然災害や天候不順、家畜の広域感染病など、被害が広域にわたる災害では、被災者は国による補償に全てを託し、その損失に対する自己準備を疎かにする傾向がまだ日本には多いようです。幸運にして被災後融資を受けられたとしても、その金は「借金」であり「援助金」ではありません。借金である以上返済する義務があります。会社がこれまでの債務に追加した形で新しい借金をし、それを返済しながら運営することは、それほど容易なことではありません。この点をよく理解していない経営者が意外と多いことに驚かされます。
 
 災害以外にも財務を脅かすリスクは多く存在します。現在最も懸念されているのが国際会計基準への変換です。環境リスクに対応する土壌汚染対策法では、搬出土壌の管理を厳格化し、調査や浄化、処理、運搬など事業者への規制を強化しています。それに伴い、企業には有形固定資産の売却や解体などを行う際、相当の費用が発生します。上場企業は2010年4月1日の会計年度から「資産除去債務に関する会計基準」の適用が義務付けられました。これは、有形固定資産の報告において将来発生する費用を債務として認識し、耐用年数に応じ原価償却費として費用化することを意味します。工場を持つ企業はその土地の土壌が汚染されている可能性は非常に高く、土壌の浄化に莫大なコストがかかる現在は、資産価値以上の費用が見込まれる恐れもあります。工場を持たない企業においても、所有する古いビルがあれば、建物にアスベストが使用されている可能性は高く、資産除去債務を負うことを想定する必要があります。
 
 
 リスクへの対策には、回避、移転、低減、保有といった4つの基本的な考えがあります。日本の企業経営者は、リスクは顕在化を防止することに重点を置き、そのための努力を社員に強要する傾向があります。しかし、リスクはいかに努力しても100%防止することは不可能です。そのため、多くのリスクは対策を講じた後も残る「残存リスク」に対し、財務的対策を考える必要があります。
 
 
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【リスクマネジメントレッスン‐目次‐】
| 1.進化するリスクマネジメント | 2.リスクマネジメントの必要性 | 3.リスクの認識 |
| 4.リスクマネジメント・プロセス | 5.リスクの評価・査定 | 6.リスクの管理・対策 |
| 7.リスク・チェーン | 8.BCP(事業継続計画) | 9.緊急時対応 |
| 10.リスクファイナンス | 11.モニタリング | 12.リスクに強い組織体制 |