RMリソース
研究報告&論文
 
総評
 リスクマネジメント協会では、毎年、リスクマネジメントの普及、実践への貢献に向けて広く論文を募っています。今年度も多くの論文を提出していただきました。提出された方々にお礼を申し上げます。
 今年度は、全社的リスクマネジメント(ERM)で重要な概念であるリスクアペタイトを組織に実践的に導入するための検討を加えるという、リスクマネジメントの基本に挑むもの、またコロナ感染といったパンデミックに遭遇して、どのようにリスク対応すべきかといった最近の重要課題を扱ったものが提出されました。取り上げたテーマがリスクマネジメントの根本的な課題である、また、まだパンデミックの最中にあるため変化する状況を的確に把握することが困難であるという難しいものでした。しかも対面での活動ができず、議論を尽くしきれないこともあり、1年間という短期間で取り組むことは大変であったことが推察されます。こうした状況を考慮すると、いずれも力作でした。
 今年度も、審査委員会では、私を含め4人の専門委員の皆さんに論文を審査していただきました。審査の視点としては、当協会の目的であるリスクマネジメントの普及と発展に対して合致していること、取り上げたリスクに関して、そうしたリスクに対応する組織にとって有益な実践的提言であること、そして高度な知識や経験を活かすとともに、データなどの客観的な根拠をもって新たな知見を見出してリスクマネジメントの発展に貢献していることを考慮しました。
 リスクマネジメントに関しては、常に多くの研究・調査が実施されています。したがって、そうした先行的な研究・調査を踏まえて、それらを整理するだけでなく、その整理に基づいてさらに探求すべき課題を発見して、その課題意識に基づいて独自のデータを活用して新たな知見を加えることでリスクマネジメントの領域で貢献するという姿勢が評価されます。大きな課題に取り組めば、当然、成果を形にするまでは時間を要するため、提出された論文が中間的な発表になることも考慮します。
 審査委員会では、こうした共通理解に基づいて、審査を実施しました。その結果、今年度は受賞論文として、次を選びました。。
論文審査委員会 委員長 神田良
 
論文審査委員会
委員長  明治学院大学 経済学部 教授 神田良
委 員 
(五十音順)
東洋大学 経営学部 教授 奥村哲史
ゼウス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長/
社会情報大学院大学 教授 白井邦芳
  慶應義塾大学 商学部 教授 柳瀬典由
 
 
 最優秀賞
該当なし
 
 優秀賞
大阪企業リスク研究会広報リスクグループ「新型コロナ感染症と労務リスク」
講評
 コロナ禍で進むリモートワークにおける過重労働から生じうるメンタルヘルスなどの労務リスクに関して、アンケート調査を実施して、現状と課題を把握するものである。リモートワーク型労働と非リモートワーク型労働に分けて実態を調査するという分析視点で、リモートワークの課題を明らかにしようとするもので、自由記載も含めて課題を整理している。質問票の全体構成を明示して、調査の具体的な焦点を示すことで、既存調査では明らかにされていなかった発見事項をより明確にするような記述になっていれば、調査結果の価値をさらに高めたと思われる。

リスクアペタイト研究会「リスクアペタイトのトリセツ」
講評
 全社的リスクマネジメント(ERM)での中核的な概念であるリスクアペタイトを実践的に活用するための枠組みを検討するものである。トリセツとあるように、企業で実践的に導入するときのガイドラインを提示しようとの試みである。この概念に関するこれまでの議論を整理し、リスクマップを活用して、アペタイトをどのように位置づけるかを明確にしている。提案された枠組みは仮説的なものであり、著者たちも述べているように、その実践での活用の有効性を高めるのは今後の研究課題となる。日本企業の実情に応じた、実践的なアペタイトの活用に向けて、研究の進展を期待したい。
 

 
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