RMリソース
RM情報誌TODAY

【特集】止まらない気候クライシス

 気候変動による死亡率が、世界の一部地域でがんと肩を並べるおそれがある。2023年3月、国連開発計画(UNDP)はそう発表した。温室効果ガスの排出量削減をはじめとする緩和策とともに、一刻も早く世界が足並みをそろえてこの状況に適応しない限り、多くの人々が生存を脅かされ、生活の基盤を失い、不平等さと格差の拡大が地政学リスクを高める。当然ながら企業の寿命も、こうした現実に大きく左右される。

 世界の経営者たちはすでにそのことを理解している。世界経済フォーラムのグローバルリスクでは近年、かつての経済に関するリスクに代わって気候や環境に関するリスクが上位を占める。気候変動が業績そして事業の存続に大きく影響することは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が気候変動によるリスクと機会に関する開示を求めていることからも明らかだろう。気候はすでに非常事態にあり、気候クライシスはいまや最大の経営リスクの一つとなった。

 気候変動問題の現状と気候リスクマネジメントでは、世界が取り組んできたはずの「緩和」が、思ったよりも成果を上げていないことが紹介されている。では、もう一つの気候変動対策の柱であり、UNDPも要請する「適応」とは何か。この点についても日本における取り組みの現状と課題が明らかにされる。
 その具体的な実践アプローチについて解説したのが、入門・気候変動適応の始め方である。著者が関わる「気候変動適応情報プラットフォーム(A -PLAT)」を見ると、多くの企業が実践に乗り出していることがわかる。食品メーカーは、異常気象に強い新たな材料の開発や調達を進めている。屋外作業が多い建設業各社は、熱中症対策をはじめとした労働者の安全確保の仕組みの構築を急ぐ。さらに業種を問わず多くの企業で水害への備えも進む。
 それでも個社の努力の範囲を超えた破壊的リスクもある。それが、気候安全保障である。気候変動がもたらす紛争や暴動の脅威は、インテリジェンスの世界のみならず経営の領域においても、ここ1、2年で急速に注目が高まっている。著者は、気候変動の影響を最も深刻に受けると考えられる途上国のカントリーリスクの高まりや、サプライチェーンや各国市場への影響を………