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リスクマネジメント Lesson
 10.リスクファイナンス
 
 リスクマネジメントには「リスクコントロール」と「リスクファイナンス」があります。日本のリスクマネジメントはリスクコントロールが中心となっていますが、リスクファイナンスの重要性を理解している経営者は少ないようです。
 
 リスクファイナンスは、「突然高額な損失が発生した時に、倒産に追い込まれないよう資金を準備しておく」ことで、基本的に2通りの方法があります。
 
 1つは平常時に組織内で緊急時の資金を積み立てておくこと。もう1つは損害保険のように外部組織の商品を購入することです。前者の場合、よほど利益を上げている企業以外は積立する金額には限度があり、あまり効率的とはいえません。一方後者の保険は、契約することで実際の損失に比べ、小さいコストで大きな補償を得ることができる手法です。
 
 リスクマネジメントの世界では、保険を購入することを「リスクを移転する」といいます。保険は非常事象が発生し本来自社が被るはずの損失が、契約し保険料を支払うことによりその費用を保険会社が負担するというシステムです。有事において自社が被る損失が保険会社に移行したと考えるこをできるため、リスクの移転という表現をします。
 このようなリスクの外部への移転方法は他にもデリバティブや共済、ボンドなどがありますが、現代社会では90%以上が保険を利用しています。
 
 平成18年3月に報告された経済産業省リスクファイナンス研究会のアンケート調査結果では、従業員300人以下の企業では23%が本業以外のリスクに対し特に対策を取っていないと回答しています。つまり、1/4に近い中小企業は大震災や風水害に見舞われ大きな損失が発生すると、倒産する可能性が高いと考えられます。また、大企業においても世界的金融危機などのような損害保険で十分カバーできない、想像を超えた新しい外的要因リスクへは88%の企業が「特に方策は採っていない」と回答しており、今後の課題となっています。

 同研究報告書では、東京ディズニーランドを運営する株式会社オリエンタルランドの地震対策が紹介されています。同社は首都圏での大地震発生を想定し、建築物は地盤改良や耐震構造を徹底しているため、物理的被害は大幅に軽減されているとしながら、震災に伴う鉄道、道路の不通による収益への影響が尋常ではないことに注目しています。同社は、地震債権という特殊な手法で対応しています。
 
 
 数年前、保険会社の不払い問題が世間を騒がせましたが、保険は自社のリスクを移転できる重要なツールです。契約内容やそのシステムを購入側が十分理解するべきであり、その内容を熟知すれば同額の費用で大きな補償を得ることも可能です。
 
 
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【リスクマネジメントレッスン‐目次‐】
| 1.進化するリスクマネジメント | 2.リスクマネジメントの必要性 | 3.リスクの認識 |
| 4.リスクマネジメント・プロセス | 5.リスクの評価・査定 | 6.リスクの管理・対策 |
| 7.リスク・チェーン | 8.BCP(事業継続計画) | 9.緊急時対応 |
| 10.リスクファイナンス | 11.モニタリング | 12.リスクに強い組織体制 |